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My Sunshine & Little Stars わたしのタカラモノ in London

人生の目的

って、ものすごいタイトルだけれども、普段こんなことを真面目に考えることはないように思う。

彼女はジャマイカからの移民で、イギリスにはおそらくキャリアをつけるために来たのだと思う。ちょっとごっつい風貌で真っ直ぐな物の言いようをする頭のいい女性である。2年前、30歳のときに乳癌と診断され術前化学療法を行ったのにも関わらず手術後の病理では、腋下リンパ節18/18という如何にもハイリスクであった。案の定、術後ハーセプチンの期間中に局所+肺転移が発覚した。

それから、ずっといろいろな化学療法を続けている。転移巣のコントロールは何とかついていたが、ケモのために1-3週間に一回は病院通い。当然ながら望む仕事にも就けず、Benefit(生活保護)で暮らしている。抗がん剤の副作用もじわじわとでてきていた。マクミランナース(癌専門ナース)が彼女とじっくり話たところ、「ケモを頑張って続けていればいずれ癌は全てなくなる」「そしたらジャマイカに戻って働いてお金を貯めて、またイギリスに戻ってきたい」と思っていることが判明した・・・。

続けていたレジメがだんだん効かなくなってきて(局所胸壁の再発潰瘍拡大、さらに反対側の乳房&皮膚にも転移が拡がってきている)変更することになった。すでに末梢血管のアクセスは困難だったので、中心静脈ラインポートを使っていたが、これが曲者で彼女のポートは毎度アクセストラブル続き、深いのと、さらには造影で漏れが確認されてやりなおしたり、etc. 散々。

昨日の外来の終わりごろ、彼女がボーイフレンドに付き添われて泣きながら戻ってきた。やはり、今日もポートのアクセスができず、ケモナースも末梢血管を確保しようとトライしたがだめだったとのことだった。私もポートのアクセスを試みたが、まったくフラッシュすらできない有様。血管造影室の放射線科コンサルタントに頼み込んで、透視下でアクセスしてもらうことにして、その後彼女をケモルームに戻して治療するから、と連絡した。Nurse in charge(婦長)が「誰も彼女の治療なんかしたがらない」と言うので理由を聞いたら、今日その婦長が末梢血管のアクセスにトライした後に、くだんの彼女がバックでその婦長の顔をぶったというのである。看護助手にも聞いてみたが、殴ったわけではないが、確実に顔に当たったのに謝りもせず、Rude(無礼)だったとのことであった。

とにかく治療優先、ということで、透視下でトライしてもらったが、ポートは深いは、なんとか針は入ったが、どうにもこうにもフラッシュできず、ラインももずれていて、つまり完全に詰まってしまっていることが判明しお手上げ・・・。もうこうなったら、新しいライン挿入のリクエストをすることにして今日は治療中止せざるを得ないと説明した。

「それはわかったけれども、ケモルームのナースたちにどうしてそんなに不親切なのか話をしてくれるか?」と聞いてきたので、迷ったけれども、「バックでナースの顔をぶったのは本当なの?」と聞いてみた。「床からつかんだときに当たったけど、殴ったりはしていない。私はそんな暴力的な人間じゃない。そのナースに話をつけに今からすぐ行く」と言い出したので、まずいこと聞いちゃったなあ、と、ボーイフレンドも「何を言いに行くんだ?」と止めようとしたが、頑として聞かないので、もうこうなったら話をしてもらおうと一緒についていった。
人生の目的_f0221040_5533864.jpg
彼女は、ただ、謝った。

この先、いくら治療を続けても、根治することはなく、じわじわ下り坂を下っていくのだ。
やりたい仕事、ボーイフレンドとの将来。

私だったら、何を目的にしていけばよいのだろう?と思う。そんなこと、普段から考えてもいないのに、答えなんか出てくるはずもない。ただ、せいいっぱいに一日を過ごすしかない、ような気がする。



by marikology14 | 2010-04-09 05:57 | 医療

ロンドンで医師として働き&子育てしながらの日々雑感ブログ
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